三月一日 「手放す」
多くの荷物を持たないこと。
バックパックを空にして、次の旅へ出ること。
いつも大切にしている言葉だ。
ミックス作業に入り、新鮮な姿勢で臨むために、一度スティルライフへの執着を無くす。
ふと友人の調律師・内田輝に教わった言葉がよぎる。
"ピアニストになりたいなら、絶対に重い荷物は持つな"
プロとしてどんな時も指を、手を守り抜くこと。
調律師として、共演者としての目線から、彼は何度も釘を刺してくれた。最初はライブ設営の準備や撤収のお手伝い出来ないもどかしさや申し訳なさもあったが、そのたびに彼の言葉を思い出した。
「君の指が壊れたら、誰が代わりに弾くの?」
ミュートピアノだとしても、ソロピアノアルバムをリリースするということは、ピアニストへの道を歩み始める覚悟を僕なりに持たなければならない。今までに何度も諦めた道だとしても。次は布を外したアップライト・ピアノ、そしていつかはグランドピアノで、という夢を叶えるためにも。
執着を捨てること。 いつも風通しよく、身軽であること。
今日は、新たな軽やかな心持ちで、一気にアルバムミックスの第一稿が全曲完成した。