二月十二日 「カナタ」
小学四年生の時に、祖父が校長先生を務めていた隣町の学校から転校してきた不思議な人物がいた。
今でも、黒板に大きく書かれていた彼の名前を覚えている。
中学で仲良くなり、屋根裏部屋で僕にギターを教えてくれたその後10代後半で初めてのバンドを一緒に組み、僕は上京する。彼の高校卒業を待ち、東京に呼び寄せて共に暮らした。それから、十五年間もの長い間。
僕にとって親よりも長く暮らした友人は今、結婚し、親子三人で隣町に暮らしている。
娘の名前は僕が提案した。
「カナタ」だ。
baobabとのアルバム「カナタ」を作る前から、提案していた。まさか本当にその名前にするとは思わなかったけれど。
カナタはたまにピアノを弾きに来る。
とてもとても可愛らしい、素直な良い子だ。
ピアノを弾いている僕を絵に描いてくれた時は心から感動した。僕もカナタによく会いに行く。
家に遊びに行くと、名前を呼んで駆け寄ってきて、たくさんの宝物を見せてくれる。抱っこもリクエストしてくる。
そしてカナタは「カナタ」歌うのだ。
なんて愛くるしいのだろう。
旅をすると、カナタにお土産を買いたくなるし、帰りの新幹線で思い出す。カナタが世界一可愛い。
親ではないから、これは親バカとは言わないだろう。
カナタが大人になり、「スティルライフ」を聴いたとしたら、その頃、どうしているだろう。音楽は何処にあるだろう。もう僕は近くには居れないかもしれない。
でもスティルライフの中には、確かに、カナタの音が鳴っている。