二月十三日 「凪」
この曲が生まれた日のことをよく覚えている。
papparayrayでのライブ演奏中のことだった。「万」の徳さんが近くで観ていてくれて、良い緊張感の中、霧の湖畔に漂う一艘の舟のような心持ちで生まれた。
一つの音のリズムがリフレインしながら、コードがゆっくりと物語を展開させていく。
やがて一つの光を受けて、また舟は漕ぎ出していく。
普通のピアノでは効果を発揮していた単音のリズムが、ミュート・ピアノだと打鍵の戻りの音が気になってしまうが、それらに対するアレンジをすることにはもう慣れている。
打鍵の音数を減らし、よりシンプルに、しかしスピード感は失わない様に工夫する。
裏のリズムだけを弾くことでそれが解決されたが、少し難曲となってしまった。何度もトライする。
二日間をかけて、ようやく完成した。
残りの曲には、ここまでの技術的な難しさは無いので、ほっと一息。
完成した曲は、玄のミックスが始まっている。
ジャケットのデザインも鈴木さんが作り始めている。
様々なことがスタートしている。
今作のために、自主レーベル「灯台」を立ち上げたので、全てが手作りだ。手の届く範囲で作品を作れることは、とても風通しが良い。
スティルライフの形がはっきりと見えてきた。夕暮れの光に染まる部屋のピアノを眺めながら、この日々を想った。