一月二十六日 「8番目のポートレイト」

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暮れる日をなぜ美しいと思うのか。
夕方に心惹かれるのはなぜなのか。
そこに根元がある気がする。
理由もなく心揺さぶられることの理由。
どうしてこのメロディが心地よいと思うのか。
私たちが普段「正しい」と思ってしまっている多くのことは、本当はそれとは少し遠いことなのかもしれない。

ピアノの鍵盤に音もなく触れたい。
手の重力をなくしたい。
アルバムを過半数録音してきて、何度も重ねたテイクより、ふと即興的に録音したテイクの方を最終的に選んでいる。
「本番」と思ったテイクではなく、より自由に弾いたもの。

脱力すること。
自我を傍らに置き、何にも捉われずに弾くこと。
ここ何年かずっとその心持ちで演奏をしてきたけれど、それを録音に残す難しさ。

「8番目のポートレイト」 最も内省的なこの曲に向き合うのは、他の曲とは違う濃度があるようだ。
佳境。
冬の冷たい風が吹く一日だった。



photo TKC

 
suzuki takahisa