一月十日 録音開始「新しい朝」
新しい朝。
快晴。
体調も悪くない。
今日こそスタート出来そうだ。
天気が良いのでまず窓を開けて、花の水を取り替え、洗濯をし、顔を洗い、空気を新鮮に入れ替える。近くのカフェで豆乳のバナナスムージー、キャベツとハムカツのサンドウィッチ、ホットコーヒーで朝食。
部屋の光が美しかったので、何枚かポラロイドを撮る。
この部屋は朝から夕方までの光が美しく、風がよく通る。特に何もないけれど。
アルバムの一曲目に想定している曲から取り組む。
「新しい朝」という曲だ。
スティルライフの曲たちの中でも、最初に生まれた曲。
すでに一年ほど弾いてきているので、理想の演奏も描けているだけに難しそうだ。
いざ集中してピアノの前に座ると、街の音が思った以上に賑やかだった。車、飛行機、工事、救急車、人の声。それらの音が鳴っていないタイミングで弾き始めるが、演奏が終わるまで何も音が鳴らないのは難しいかもしれない。
大きな音が突発的に鳴り、何度も中断させられる。
今回はミュートピアノという、ピアノの弦とフェルトの間に布を挟んだ状態での録音に臨んでいるが、さらにソフトペダルも踏んでいる。どこまでも生活に寄り添うような、優しい音色を獲得するためだ。
しかし録音で聴くと、ピアノの生音とはまた、全く違って聞こえるのでタッチの加減が難しい。しかし生音を聴いて弾きたいのでヘッドフォンはしたくない。感覚で演奏して何度かトライし調整する。
陽が傾いてきた頃、ひとまず納得のテイクが録音できた。奇跡的に、子供の声と鳥の声が入って曲とよく合っている。ほっと一息。
別の曲のラフを録音してみたりして、日も暮れてきた頃、もう一度聴く。
そこでなんとなく、もう一度新鮮な気持ちでトライすることにした。既にテイクは取れているのだから、肩の力を抜いて弾いてみるのも悪くない。ここは自宅。何度トライしても良いのだから。
ピアノの前に座ると、昼との違いに驚いた。
日が暮れると、途端に街の音が消え、不思議な静寂が訪れていた。
すると生音で聞こえるピアノの音も大きく変わり、必然的にタッチも変わった。
そうしたら、昼に録音したものテイクとは全く別物の、理想に近いテイクが録音出来た。これは嬉しい驚きだった。
感覚的に「これだ」という充足を得られることが重要だ。
演奏的にはまだ詰められるかもしれない。
けどアドリブの箇所がうまく転んだことも相まって、
「もうこの曲は弾くべきではない」という感覚を得た。
「新しい朝」は完成。
ピアノにマイキングをしてから一週間が経ち、
いよいよスティルライフが始まった。