二月十五日  「別れの挨拶」

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起きて、自由に即興演奏を録音してみる。
全曲を録り終えた今の心持ちで、
こういう時にも、何かが生まれるものだ。

一ヶ月半のスティルライフ・レコーディング。
あっという間に過ぎたようだが、四季を巡ったような不思議な感覚がある。
制作期間には暗い闇の冬もあった。
いま、ようやく春が訪れる。

一ヶ月以上ほとんど作曲仕事もライブ演奏も入れずに、自宅に篭りレコーディングするには、それなりの覚悟が伴う。
お休みしてるのと等しく、なんの収入も得られないわけだから。特に僕の場合、職業的音楽家ではないので、監督や演出家さんからの直接のオファー以外は仕事がない。そんなスタイルを長年取っているので、次にいつオファーが来るかもわからないのに長期間一つの作品だけに時間を捧げるのは勇気が必要だ。

けれど、いつも思うことは「身銭を切る」ことの大切さだ。
多くの喜びは、痛みを引き換えに得ることが出来る。楽をして得られるものは、それなりのものだ。
大事なレコーディングも、誰かとの即興セッションも、必ず一人で行く。本番では誰も助けてくれない。
一人で立ち向かい、たとえボロボロになったとしても、一人で行かねば得られないものがある。
身銭を切ること。
その後には大きな喜びが待っている。
こんな風に出来上がったアルバムに対峙して、完成に近いその絵を観ながら、椅子に座り珈琲を飲みながらゆっくりと聴ける時間は喜びの一つと言える。
どのアルバムもそうだが、発表した後は、ほとんど聴くことは無い。世に問う時点で、作品は旅立って行く。

それまでに一生分聴く。
生活を共にするほどに。
もうすぐ、スティルライフとお別れだ。

 
suzuki takahisa