二月八日   「ある具象」

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二月を太陽が照らして心地良い。
珍しくランチを摂る。
昔から通ってる店のナポリタンとジンジャーエールのセット。帰りにいつものコーヒースタンドでボトルに珈琲を淹れてもらう。

日々のルーティンにも馴染み、レコーディング生活にリズムもグルーヴも生まれ、ミュートのタッチも心得てきた。
それでもなお、録音の毎日が続くと現れるのが「慣れ」だ。
「慣れ」は非常に厄介。
全ての物事から鮮度が失われ、換気が滞る。
「慣れ」ない為には、「窓」を開けること。
対象から一度、視点を変えても良い。
ルーティンに少しずつ変化を与える。
昨日は自転車で川沿いを走り、カフェテラスで太陽を浴びながらジェラートを食べたり、風呂で池波正太郎の「食卓の情景」を読んだり、夜には懐かしい映画「レオン」を観たり、今日は珍しくランチを摂り、自分の空気を一度入れ替える。

そして、録音したことのないタイプの曲に臨んでみた。

スティルライフはほとんどが、旅のスケッチを元に作った楽曲たちだが、今日は完全即興で思いのままに弾いてみた。
録り直しの効かないワン・テイク。
すると、忘れていた演奏を取り戻すことができた。
アルバムにも、風が吹いたように思う。
「風が通ること」は本当に大切だ。

二週間後には、確実に、この録音の日々は終わる。
最後の十日間が始まる。

 
suzuki takahisa