二月三日 「春がくる前日に」
今日は節分。
相応しい、晴れの日。
花も元気に育ち、窓を気持ちよく開けて太陽を迎え入れる。
友人から届いた、植物をモチーフにした作品の贈り物が美しく輝いている。
「新しい朝」
この曲にずっと向き合ってきた。
昨日のラジオでは自由に弾いていた。
普通のピアノで弾けば、なんの問題もないのだ。
特に技術的に難しい曲ではない。
ラジオを聞いた方から 「この曲を是非アルバムに入れてください」との感想も寄せられた。僕だって入れたい。しかし、やはりどうしても、この曲はミュート・ピアノには不向きなのかもしれない。
「新しい朝 奮闘記」
1. 一曲目に想定していたこの曲からスティルライフレコーディングは始まった。ミュート・ピアノで録音するが、鍵盤のカタカタ音や、特定の鍵盤の不協和音的な鳴りが気になるとの声が多数。どうやら音域的に、丁度ミュートの布との相性が悪いようだ。他の曲では大丈夫でも、この曲だと不協和音が目立つ。この時は二つの曲想を連結させた、ロングバージョンだった。
2. ミュート・ピアノで再挑戦。カタカタ音を減らすために限りなく優しいタッチで弾く。ソフトペダルも踏む。今度は優しすぎてメロディがボヤけ、フェルトなどの音も逆に目立ちすぎることに。
3. ミュート・ピアノで三度目の正直。メロディは立つように右手は強めに、でも左手は弱めに、ちょうど良い加減を何度も微調整してテイクを残すが、曲本来の朝の輝きが見られない。
4. 麻の布のオリジナルミュートで挑戦。麻ではさらに、この曲の音域が布と相性が悪く、たくさんの不協和音が鳴る。たまにキーン!とかいう。しかし、音はピアノとミュートの間で、新しい朝に相応しい。
5. 麻で何度も何度も挑戦する。テイクを重ねて、不協和音が鳴ったり、音自体が鳴らなかったりした部分を、一音単位、響きの単位で細かく綿密に入れ替えていく作業を繰り返す。何時間もかかる繊細な作業。
何度も録音をやり直してきた。
そして、今日。
ようやく「新しい朝」に
オリジナル・ミュート・ピアノで、
ひとつのテイクが生まれたのだ。
立春の目の前。
邪気を払う節分の日に、
今日が節目となった。
思えばスティルライフを始めてちょうど、一か月が経った。
この曲はこれまでも何度も、「完成した」と、思ってきたのではやり直してきたので、まだ安心は出来ない。
何日か聴いて、新鮮な耳で心から納得できるかどうかだ。
きっとアルバムを聴いても、なぜこの曲がこれほど録音が難しかったのか誰もわからないと思う。
ピアノではシンプルな曲だ。
ただ、我が家のミュート・ピアノとの相性の問題。 それがたまたま、アルバムのスタートを切るどうしても外せない大切な曲だったのである。
実にミュート・ピアノは奥深い。